5種混合ワクチン 判断材料

8. Hib結合型と乳児免疫

項目 内容
この章の役割 莢膜多糖、CRM197、T細胞の助け、乳児で糖だけだと弱い理由
この章で分かること Hibの糖の目印を、乳児の免疫が覚えやすくする仕組み
読後のゴール PRP、莢膜、CRM197、結合型を「名前」ではなく役割で説明できる

この章では、Hibだけ少し特殊な「糖+タンパク質」の設計を扱う。糖だけでは弱い理由から順番に見る。

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8-1. 結合型とは:糖にタンパク質を足すこと

Hibの莢膜多糖は、糖の目印。乳児では糖だけだと反応が弱くなりやすい。

糖だけ 糖+タンパク質
B細胞には見える B細胞には糖が見える
T細胞の助けを受けにくい タンパク質部分がT細胞に見える
IgM中心になりやすい IgGや記憶が作られやすい
追加接種の反応が弱め 追加接種で反応しやすい

結合型は、「乳児の免疫が糖を覚えにくい」という弱点を補う設計。

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8-2. Hib結合型:糖だけでは弱いからタンパク質を足す

Hibのターゲットは莢膜多糖。莢膜は細菌の外側のカプセル、多糖は糖がたくさんつながったもの。

問題は、乳児では多糖だけだとT細胞の助けを受けにくいこと。

多糖だけ 多糖+タンパク質結合体
T細胞が関わりにくい タンパク質部分がMHCに乗る
抗体が上がりにくい T細胞がB細胞を助ける
免疫記憶が残りにくい 免疫記憶が作られやすい
追加接種の反応が弱い 追加接種で反応しやすい

出典: S23, S26

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8-3. 莢膜多糖だけだと、乳児には弱い

莢膜多糖は、B細胞には見える。でもT細胞には見えにくい。

免疫の相手 多糖だけの場合
B細胞 糖の繰り返し構造を認識できる
T細胞 多糖はMHCに乗りにくく、助けに入りにくい
乳児 T細胞の助けなしの反応が弱め
免疫記憶 長く残りにくい

ここが結合型ワクチンの出番。糖をタンパク質に結合させると、タンパク質部分がMHCに乗ってT細胞へ見せられる。

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8-4. 莢膜抗体が菌を見つけやすくする

莢膜に対する抗体があると、免疫細胞がHibを処理しやすくなる。

流れ 何が起きるか
抗体が莢膜に結合 Hibの外側に目印がつく
補体が働く 細菌表面で防御反応が進む
食細胞が見つける 好中球やマクロファージが取り込みやすくなる
血液中で増えにくい 侵襲性感染へ進みにくくなる

ワクチンの狙いは「Hib菌を体内に入れる」ことではなく、莢膜という外側の目印に対する抗体を先に用意しておくこと。

出典: S23, S26

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8-5. Hib結合型の流れとCRM197

ゴービックでは、Hibオリゴ糖-CRM197結合体が使われる。CRM197は、毒性を持たないジフテリア毒素変異タンパク質。

流れはこう。

  1. Hibの糖+CRM197の結合体が入る
  2. B細胞や抗原提示細胞が取り込む
  3. CRM197などのタンパク質部分が小さく分解される
  4. MHCに乗ってT細胞へ見せられる
  5. T細胞がB細胞を助ける
  6. Hib糖成分に対する抗体と記憶が作られやすくなる

「糖をタンパク質にくっつける」のは、乳児の免疫をうまく使うための工夫。

出典: S2, S23

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8-6. Hibの「b」は莢膜の型

Hibは、Haemophilus influenzae type b の略。

ここで大事なのは、type b が「莢膜多糖の型」を指すこと。

言葉 意味
Haemophilus influenzae インフルエンザ菌という細菌
type b b型の莢膜を持つタイプ
Hib b型インフルエンザ菌
PRP Hibの莢膜多糖の名前

Hibワクチンは、Hibの莢膜という外側の目印に対する抗体を作る。インフルエンザウイルスを防ぐワクチンではない。

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8-7. Hib結合型で出てくる用語

Hib周辺は名前が紛らわしい。

用語 意味
Hib Haemophilus influenzae type b
インフルエンザ菌 細菌。インフルエンザウイルスとは別
type b 莢膜多糖の型
莢膜 細菌の外側にあるカプセル
PRP Hibの莢膜多糖
CRM197 Hib糖に結合するキャリアタンパク質

Hibワクチンは、季節性インフルエンザを防ぐワクチンではない。

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8-8. PRPとは:Hibの外側にある糖の目印

Hibの莢膜多糖は、PRPと呼ばれる。

PRPは polyribosylribitol phosphate の略で、糖とリン酸が繰り返しつながった構造。

部分 ざっくりした意味
poly たくさん繰り返す
ribosyl / ribitol 糖に近い構造
phosphate リン酸基
polysaccharide 多糖。糖がたくさんつながったもの

免疫から見ると、PRPは「Hibの表面にある特徴的な模様」。この模様に抗体を付けるのが狙い。

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8-9. 糖だけだとT細胞に見せにくい理由

T細胞は、基本的に「タンパク質が小さく切られたペプチド」をMHCに乗せて見せられると反応する。

多糖は、タンパク質ではない。
だから、そのままだとT細胞に説明しにくい。

物質 MHCに乗せやすいか
タンパク質 小さなペプチドに切れるので乗せやすい
多糖 ペプチドではないので乗せにくい
糖+タンパク質結合体 タンパク質部分をMHCに乗せられる

乳児で糖だけのワクチンが弱い理由は、このT細胞の助けを使いにくいところにある。

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8-10. B細胞は糖を見る、T細胞はタンパク質を見る

結合型ワクチンのうまいところは、B細胞とT細胞の見ているものをつなぐ点。

細胞 見ているもの Hib結合型での役割
B細胞 Hibの糖、PRP 「この糖に抗体を作りたい」と反応する
抗原提示細胞 結合体を取り込む タンパク質部分を分解してMHCに乗せる
ヘルパーT細胞 CRM197などのペプチド B細胞を助ける信号を出す

結果として、抗体の質が上がり、記憶も作りやすくなる。

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8-11. CRM197は「毒素」ではなくキャリア

CRM197は、ジフテリア毒素由来の変異タンパク質。
ただし、毒素として働く力は失われている。

見る点 内容
由来 ジフテリア毒素に近いタンパク質
毒性 変異により毒性を持たない
役割 Hib糖をT細胞に説明するためのキャリア
免疫での扱い 分解され、ペプチドとしてMHCに乗る

Hib糖をCRM197に結合するのは、Hibを強くするためではない。乳児の免疫にHib糖を覚えさせるため。

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8-12. 結合型で起きる免疫の流れ

  1. Hib糖+CRM197が注射部位に入る
  2. 樹状細胞やB細胞が取り込む
  3. タンパク質部分が小さなペプチドへ分解される
  4. MHC IIに乗ってヘルパーT細胞へ見せられる
  5. T細胞がB細胞へ「増えて、抗体を作って」と助ける
  6. B細胞が形質細胞になり、抗PRP抗体を作る
  7. 一部は記憶B細胞として残る

糖だけでは弱い反応を、タンパク質の助けで「記憶に残る反応」へ寄せる。

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8-13. 抗PRP抗体は何をする?

抗PRP抗体は、Hibの莢膜にくっつく。

すると、Hibの外側に「この菌を処理して」という目印がつく。

作用 何が起きるか
オプソニン化 食細胞が菌を食べやすくなる
補体活性化 菌の表面で補体が働きやすくなる
血中増殖の抑制 侵襲性感染へ進みにくくなる
髄膜炎予防 血流から中枢神経へ進む前に止めやすくなる

Hibは莢膜で免疫から逃げやすい。だから莢膜への抗体が意味を持つ。

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8-14. 乳児で「糖だけ」が弱いのは年齢の問題

乳児は大人のミニチュアではない。

特に、多糖だけに対する反応は年齢で弱く出やすい。

反応 乳児での弱点
T細胞非依存性反応 免疫記憶が作られにくい
IgM中心の反応 長く残るIgGへ育ちにくい
追加接種の反応 ブースター効果が弱くなりやすい
莢膜菌への防御 抗体が足りないと血液中で増えやすい

だからHibでは、単なる多糖ワクチンではなく結合型が使われる。

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8-15. Hib結合型が「混合」に入る意味

Hib成分は、トキソイドや不活化ポリオとは性格が違う。

成分 免疫に見せるもの
ジフテリア 毒素を弱めたタンパク質
破傷風 毒素を弱めたタンパク質
百日せき 菌の毒素・付着関連タンパク質など
ポリオ 不活化ウイルス抗原
Hib 莢膜糖+キャリアタンパク質

5種混合は「同じものを5倍」ではない。違うタイプの目印を、同じ日に免疫へ見せている。

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8-16. Hibワクチンが狙わないもの

Hibワクチンで防ごうとしているのは、Hibの侵襲性感染。

狙っていないものも明確にしておく。

狙わないもの 理由
インフルエンザウイルス Hibは細菌で、ウイルスではない
すべての中耳炎 原因菌はいろいろある
すべてのHaemophilus influenzae b型以外もある
すべての髄膜炎 髄膜炎の原因はHib以外にもある

「Hibを打てばインフルエンザを防げる」ではなく、「Hibという細菌の重い感染を減らす」が正確。

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8-17. この章のまとめ

見たこと 判断に使う要点
Hibの目印 PRPはHibの莢膜にある糖の目印で、菌を丸ごと入れる話ではない。
乳児の課題 糖だけでは乳児の免疫記憶が作られにくく、反応が弱くなりやすい。
結合型の設計 糖にタンパク質をつなげ、T細胞の助けで抗体と記憶を作りやすくする。
キャリアタンパク質 CRM197などは、Hib糖を乳児の免疫へ覚えさせる補助役として読む。
狙う病気 Hibワクチンはインフルエンザや全髄膜炎ではなく、Hibの重い感染を減らす。