5種混合ワクチン 判断材料

5. ジフテリア・破傷風・ポリオ

項目 内容
この章の役割 今は少ないが重い病気。毒素、麻痺、集団免疫で守れない話
この章で分かること ジフテリア毒素、破傷風毒素、ポリオ麻痺を別々に理解する
読後のゴール 「今の日本では少ない」と「発症したら重い」を分けて判断できる

この章では、患者数が少ない病気ほど見落としやすい「重症化した時の仕組み」を見る。毒素と神経の話を、順番にほどく。

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5-1. ジフテリアとは

見るところ 内容
原因 ジフテリア菌。毒素を作る株が問題
体で起こること 喉に偽膜を作り、毒素が血流で全身へ回る
重い合併症 呼吸困難、心筋炎、神経障害
日本での状況 2000年以降の報告はない
判断上の意味 今は稀。ただし発症した場合の重さはかなり大きい

出典: S1

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5-2. ジフテリア菌はどんな菌?

ジフテリアは、菌そのものより毒素を作る株が問題。

見るところ 内容
原因菌 Corynebacterium diphtheriae
主な場所 のど、扁桃、鼻など
病気の本体 ジフテリア毒素
局所の問題 偽膜ができ、気道をふさぐことがある
全身の問題 毒素が血流に入り、心筋や神経へ影響する

ジフテリアは「菌が全身で増える」より、「のどで毒素を作り、その毒素が局所と全身を傷つける」病気として見る。

出典: S21

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5-3. 偽膜と毒素の流れ

ジフテリアの特徴は、のどにできる灰白色の偽膜。

流れ 何が起きるか
菌がのどに定着 扁桃や咽頭で増える
毒素を作る 細胞のタンパク質合成を止める方向に働く
局所組織が傷む 壊れた細胞や炎症産物で偽膜ができる
偽膜が厚くなる はがすと出血しやすく、気道閉塞も問題
毒素が吸収される 心筋炎、神経障害などが起きうる

ワクチンで狙うのは、この毒素への中和抗体。菌の侵入をゼロにするというより、毒素の被害を止める考え方。

出典: S21

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5-4. ジフテリア:日本では現在稀だが、過去は重かった

指標 数字
日本で最後の報告 1999年
2000年以降 報告なし
かつての年間患者数 8万人超
一般的な死亡率 約10%
5歳以下・40歳以上 最大20%死亡

出典: S1

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5-5. ジフテリア:日本の過去データと一般的死亡率で見る

ジフテリアは今の日本では非常に稀。でも、病気としての重さは別に見る。

厚労省は、かつて年間8万人以上の患者が発生し、10%程度が亡くなっていたと説明している。ワクチン接種により罹患リスクは95%程度減らせるとも説明している。

仮の流行状況 接種なしに近いリスク 95%減後 死亡10%で見ると
10万人あたり100人がかかる流行 100人 5人 死亡10人 → 0.5人
10万人あたり10人がかかる流行 10人 0.5人 死亡1人 → 0.05人

これは現在の日本の発生予測ではない。ジフテリアは「国内では稀だが、入った時に毒素で重くなる病気」として見る。

出典: S1, S21

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5-6. ジフテリア:年齢別の死亡割合

ジフテリアは、今の日本ではかなり稀。でも、発症した場合の死亡割合は年齢で変わる。

年齢 発症者の死亡割合の見方
5歳未満 最大20%程度まで高くなることがある
小児〜成人 全体では5〜10%程度という整理がある
40歳以上 最大20%程度まで高くなることがある

理由は、毒素による心筋炎、神経障害、気道閉塞などが年齢や体力に左右されるから。

5種混合のジフテリア成分は、菌そのものより毒素への中和抗体を作る発想。年齢別の死亡割合を見ると、毒素を先に止める意味が見えやすい。

出典: S1, S21

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5-7. 破傷風とは

見るところ 内容
原因 土壌などにいる破傷風菌
うつり方 傷口から入る。人から人へはうつらない
毒素 破傷風毒素が神経に作用する
症状 口が開きにくい、筋肉のこわばり、けいれん、呼吸障害
判断上の意味 集団免疫で守られにくい。外傷リスクは将来も残る

出典: S1

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5-8. 破傷風菌はどんな菌?

破傷風菌は、土の中などにいる芽胞を作る菌

見るところ 内容
原因菌 Clostridium tetani
形の特徴 芽胞を作り、環境中で長く残りやすい
好む環境 酸素が少ない傷の奥
病気の本体 破傷風毒素、テタノスパスミン
人から人へ 基本的にうつらない

だから破傷風は、周囲が接種していても本人の免疫がないと守られにくい。集団免疫が効きにくい病気。

出典: S22

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5-9. 芽胞から毒素までの流れ

破傷風は、菌が体中を走り回る病気というより、傷の奥で毒素を作る病気。

  1. 土やほこりなどから芽胞が傷に入る
  2. 傷の奥が酸素の少ない環境になる
  3. 芽胞が発芽し、菌が増える
  4. 破傷風毒素を作る
  5. 毒素が神経へ入り、脊髄・脳幹へ向かう

深い傷、汚れた傷、壊死した組織がある傷では、酸素が少ない場所ができやすい。

出典: S22

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5-10. 破傷風毒素は神経のブレーキを外す

破傷風毒素は、神経の抑制系を邪魔する。

ふつう 破傷風毒素があると
抑制性神経が筋肉の動きを抑える 抑制の信号が出にくくなる
GABAやグリシンが働く それらの放出が邪魔される
筋肉が必要な時だけ収縮する こわばり、けいれん、強い筋収縮

つまり、筋肉を直接暴れさせるというより、筋肉を止めるブレーキが効かなくなる。これが開口障害や全身けいれんにつながる。

出典: S22

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5-11. 破傷風:集団免疫では守られない

指標 数字
戦後の日本 年間1,000例超
現在の日本 年間約100例
発症者の死亡割合(致命率) 10〜20%
新生児破傷風 1995年以降、日本では報告なし
破傷風は「周りが打っているから守られる」が効きにくい。

出典: S1, S6

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5-12. 破傷風:日本の年間100例を10万人換算

破傷風は、人から人へうつる病気ではない。土や傷口のリスクなので、集団免疫で守られにくい。

JIHSは、現在はワクチン接種歴のない高齢者を中心に年間約100例、発症した人のうち亡くなる割合(致命率)は10〜20%と説明している。詳細版では、年間約100人が発病し、5〜9人は破傷風が原因で死亡するとされる。

日本全体で粗く10万人あたりに直すと、

指標 10万人あたりの年換算
発病 約0.08人
死亡 約0.004〜0.007人

小児ではかなり少ない。ただし、破傷風は「周りが打っているから守られる」が効きにくいので、個人の接種歴がそのまま意味を持つ。

出典: S6, S22, S36

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5-13. 破傷風:年齢別に見る死亡割合

破傷風は、人から人へうつらないので、年齢別の見方も少し違う。

年齢 見えること
新生児 新生児破傷風は世界的には重い病気。ただし日本では1995年以降報告なし
小児・思春期 現在の日本・米国では死亡はかなり少ない。米国2009〜2023年監視では17歳以下の死亡報告なし
大人 傷・土壌曝露があるとリスクは残る
60歳以上・高齢者 CDC Pink Bookは、死亡しやすいのは60歳以上と未接種者だと説明している。米国2009〜2023年の死亡年齢中央値は80歳

いま乳児に打つ破傷風成分は、乳児期だけでなく、将来の傷リスクに対する免疫の土台を作る意味がある。

出典: S22, S47

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5-14. ポリオとは

見るところ 内容
原因 ポリオウイルス
うつり方 主に便を介した経口感染
多くの感染 無症状または軽症が多い
重い病態 一部で急性弛緩性麻痺。呼吸筋に関わることもある
判断上の意味 国内野生株は長くないが、麻痺が出た場合の損失が大きい

出典: S1

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5-15. ポリオウイルスはどんなウイルス?

ポリオは細菌ではなくウイルス。腸で増えやすい。

見るところ 内容
ウイルスの種類 エンテロウイルスの一種
入り口 主に口から入る
増える場所 のど、腸、リンパ組織
多くの場合 無症状または軽い症状
怖い場合 中枢神経へ入り、運動神経を傷つける

多くは麻痺まで進まない。ただ、進んだ時の損失がとても大きい。

出典: S31

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5-16. ポリオが麻痺へ進む流れ

ポリオの流れは、腸から神経へ。

  1. 口から入る
  2. のどや腸で増える
  3. 局所リンパ組織へ入る
  4. 血液中へ入ることがある
  5. 一部で中枢神経へ届く
  6. 脊髄前角などの運動神経細胞を傷つける

運動神経が傷つくと、その神経が動かしていた筋肉が弱くなる。これが急性弛緩性麻痺のイメージ。

出典: S31

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5-17. なぜ麻痺は左右差が出る?

ポリオの麻痺は、全身が均一に弱くなるというより、左右差や部位差が出やすい。

理由 内容
神経細胞の障害 傷ついた運動神経が支配する筋肉に症状が出る
部位差 どの神経が傷つくかで症状が変わる
呼吸筋 呼吸に関わる神経が傷つくと命に関わる
回復後 後遺症として筋力低下が残ることがある

ワクチンの目的は、ウイルスが中枢神経へ届く前に免疫で止め、麻痺を防ぐこと。

出典: S31

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5-18. ポリオ:日本では抑え込まれているが後遺症が重い

指標 数字
野生株ポリオによる国内麻痺例 1980年を最後に確認なし
感染者のうち麻痺を起こす割合 1%以下
麻痺性ポリオの小児死亡率 2〜5%
成人の死亡率 15〜30%

出典: S1

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5-19. ポリオ:一般的な病態リスクを10万人感染で読む

ポリオは国内野生株が長くない。なので、今の日本の発生頻度だけでは効果を感じにくい。

厚労省は、感染した場合に弛緩性麻痺を起こす割合は1%以下、麻痺性ポリオを発症した小児の死亡率は2〜5%と説明している。

仮に10万人が感染したら 目安
麻痺を起こす 最大で約1,000人以下
麻痺性ポリオ小児死亡 麻痺例1,000人なら約20〜50人
IPV 3回後 99%以上が免疫を持つとされる

これは現在の日本で10万人が感染するという意味ではない。ポリオは「入ってきた時に麻痺を止める準備があるか」で見る病気。

出典: S1, S31

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5-20. ポリオ:年齢別に見る死亡・後遺症

ポリオは、多くが無症状または軽症。でも麻痺に進むと、年齢で死亡割合が変わる。

年齢・病型 見えるリスク
小児の感染 麻痺は感染全体の1%未満
麻痺性ポリオの小児 発症者の死亡割合は2〜5%程度
麻痺性ポリオの思春期・成人 発症者の死亡割合は15〜30%程度まで上がる
球麻痺型 呼吸や嚥下に関わる部位で、死亡割合は25〜75%という整理がある
小児期の麻痺性ポリオ生存者 15〜40年後に25〜40%でポストポリオ症候群が起きることがある

だからポリオは「乳児の今だけ」ではなく、「麻痺が出たら長期に残る病気」として見る。

出典: S31, S49

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5-21. 年齢別リスクを1枚に戻す

5疾患を年齢で見ると、こういう地図になる。

疾患 乳児・幼児 思春期 大人・高齢者
百日せき 無呼吸、肺炎、死亡が乳児に偏る うつす側になりやすい 長引く咳で乳児へ持ち込みうる
Hib 侵襲性感染の中心。髄膜炎後遺症が重い 健康なら頻度は下がる 非b型なども含め、65歳以上で死亡割合が高いことがある
ジフテリア 5歳未満で死亡割合が高い まれだが毒素性疾患 40歳以上で死亡割合が高い
破傷風 日本では小児死亡は少ない 傷リスクは残る 高齢者で死亡が多い
ポリオ 麻痺は稀だが後遺症が重い 麻痺後死亡割合が小児より高い 麻痺後死亡割合が高い。ポストポリオも問題

つまり、5種混合は「生後6か月の今だけ」の話ではない。乳児期に重い病気と、将来まで残る免疫の土台が混ざっている。

出典: S21, S22, S23, S30, S31, S47, S48, S49

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5-22. 5疾患の「今少ない」の意味

疾患 今少ない理由の見方
ジフテリア 国内では長く抑え込まれている
ポリオ 国内野生株は排除状態
Hib ワクチンで明確に激減
破傷風 小児は少ないが環境リスクは残る
百日せき 2025年に再流行し、現実的リスクがある
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5-23. 病気側のここまでのまとめ

  • 乳児期に現実的に気になるのは百日せきとHib
  • 破傷風は頻度は低いが、集団免疫で守られない
  • ジフテリアとポリオは国内では非常に稀だが、病気としては重い
  • 「今の発生数」だけでなく「重くなったとき何が起きるか」も見る
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5-24. ポリオ:抗体と麻痺予防で見る

ポリオは、日本では野生株が長くない。だから国内だけでは効果を実感しにくい。

見る点 内容
IPV 2回 CDC Pink Bookでは90%以上が3型すべてに防御抗体
IPV 3回 99%以上が免疫を持つと整理
効果の中心 中枢神経へ届く前に止め、麻痺を防ぐ
限界 腸管での感染・排出を完全に止める設計ではない
世界の意味 野生株・ワクチン由来株が残る地域では接種歴が効く

ポリオは「今の日本で少ない」より、「入った時に麻痺を防げるか」で見る病気。

出典: S31

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5-25. ジフテリア・破傷風:毒素を中和する効果

この2つは、感染そのものより毒素が問題。

疾患 効果の見方
ジフテリア 初回シリーズ+追加後、多くの人で防御レベルの抗毒素が得られる
破傷風 完了シリーズでは、ほぼ全員が防御レベルを大きく上回る抗毒素を持つ
共通点 毒素が働く前に抗体でつかまえる
違い ジフテリアは人から人へ、破傷風は傷口から

ジフテリアは国内で稀でも、海外や流入リスクを考える。破傷風は国内外を問わず、土や傷のリスクとして残る。

出典: S21, S22

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5-26. 効果が薄れる病気、薄れにくい病気

ワクチン効果は、全部同じように続くわけではない。

病気 時間経過の見方
百日せき 比較的薄れやすい。追加接種や周囲の対策が意味を持つ
ジフテリア 抗毒素は下がるので追加接種で維持する
破傷風 抗毒素は下がる。外傷時の追加接種判断がある
ポリオ 初回シリーズ後の抗体はかなり強いが、国際的には接種歴が問われることがある
Hib 乳幼児期の侵襲性感染を防ぐ意味が中心

「1回打ったら一生全部OK」でも、「時間が経つと全部無意味」でもない。病気ごとの免疫の持ち方を見る。

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5-27. ジフテリア:世界データで見る「戻りやすさ」

WHOは2024年ファクトシートで、ジフテリアはどのWHO地域も完全には自由ではなく、低接種地域では流行が起こりうると説明している。

指標 世界での見方
未接種・治療不十分 死亡が約30%に達しうる
5歳未満 死亡リスクが高い
2023年のDTP3世界接種率 84%
低接種の影響 免疫の隙間が積み重なると流行につながる

WHOの2025年アフリカ地域更新では、2023〜2024年に複数国で再流行し、約57,000疑い例、約2,000死亡、CFR 3.5%と整理されている。国別には、2025年のギニア疑い例でCFR 25.8%など、医療アクセスや抗毒素不足で大きく変わる。

出典: S54, S55

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5-28. ジフテリア実例:ドイツ2024年、未接種児が死亡

RKI/Eurosurveillanceの報告。2024年9月、ドイツで1984年以来の国内伝播による呼吸器ジフテリア流行が確認された。

経過 事実
発端 学童児が扁桃炎症状で受診
翌日 悪化し、偽膜とリンパ節腫脹を伴う重い扁桃炎で入院
接種歴 ジフテリア未接種
検査 C. diphtheriaeを検出。毒素産生性を確認
治療 ペニシリン、ジフテリア抗毒素、集中治療
悪化 心臓、腎臓、呼吸器に障害。人工呼吸管理が必要
転帰 2025年1月に死亡

母親は児の発症9日前に咽頭炎があり、同じ菌株が検出された。遺伝子解析では母子株はクローン性で、最近のヒト-ヒト感染が示唆された。

出典: S56

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5-29. 破傷風:世界データで見る「環境に残る病気」

破傷風菌の芽胞は環境中から消せない。だから、発生を減らすには本人の免疫、妊婦の免疫、清潔な分娩・臍帯処置、傷の処置が必要になる。

指標 世界データの目安
新生児破傷風報告例 2000年 17,935例
新生児破傷風報告例 2021年 1,995例
新生児破傷風推定死亡 2000年 46,898人
新生児破傷風推定死亡 2021年 7,719人
減少率 報告例89%減、推定死亡84%減

大きく減っているが、2020年以降、優先国の31%で新生児破傷風報告が増えた。低接種、非衛生的分娩、医療アクセス不足が残ると戻る。

出典: S57

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5-30. 破傷風実例:6歳児、額の傷から47日ICU

CDC MMWRの米国オレゴン州症例。2017年、ワクチン未接種の6歳男児が農場で遊んでいて額を切り、家庭で洗浄・縫合された。

経過 事実
6日後 泣く発作、顎の食いしばり、腕の不随意けいれん
その後 頚部・背部の反り返り、全身のこわばり、呼吸困難
搬送 救急で小児三次医療施設へ空路搬送
入院時 口を開けられず、水を求めるが飲めない
呼吸管理 横隔膜・喉頭けいれんで鎮静、挿管、人工呼吸
ICU 暗室、耳栓、最小刺激。刺激でけいれんが強まるため
治療 免疫グロブリン、DTaP、メトロニダゾール、創部処置、神経筋遮断
転帰 急性期57日、ICU47日、リハビリ17日。1か月後に通常活動へ

入院費は811,929ドル。破傷風は回復しても免疫がつかないため、ワクチン接種が別に必要になる。

出典: S58

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5-31. ポリオ:世界データで見る「消え切っていない」

WHOの2026年3月IHR委員会声明では、野生株1型はアフガニスタン・パキスタンの2か国に地理的に限られるが、国際的拡散リスクは続くとされた。

指標 世界データ
野生株1型 2024年 99例
野生株1型 2025年 40例
野生株1型陽性環境検体 2025年 673検体
cVDPV 2024年 463例
cVDPV 2025年 202例、27か国
2025年のcVDPV内訳 cVDPV2 192例、cVDPV3 7例、cVDPV1 3例

2025年10月には、ドイツの下水からアフガニスタン株と関連する野生株1型が検出された。発症者が出なくても、輸入リスクは残る。

出典: S59

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5-32. ポリオ実例:ニューヨーク2022年、未接種成人が弛緩性麻痺

CDC MMWRの症例。2022年6月、ニューヨーク州ロックランド郡の未接種成人が急性弛緩性麻痺で入院した。

経過 事実
初期症状 微熱、項部硬直、背部・腹部痛、便秘
神経症状 両下肢の筋力低下が2日続き受診
入院 急性弛緩性脊髄炎疑いで報告
検査 便からポリオウイルス2型を検出、VDPV2と確認
退院時 発症16日後、下肢の弛緩性筋力低下が残ったままリハビリ施設へ
周辺調査 患者居住郡と隣接郡の下水から関連ウイルスを検出

米国では野生株ポリオは1979年以降なく、米州は1994年にポリオフリーとされた。それでも、未接種者は野生株・ワクチン由来株のどちらに曝露しても麻痺リスクが残る。

出典: S60

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5-33. ジフテリア実例:旧ソ連圏1990年代、流行が再燃

CDC MMWRの旧ソ連圏ジフテリア流行報告。小児接種だけでなく、成人の免疫の隙間も問題になった。

年・地域 事実
1989年、旧ソ連圏 報告839例
1994年、旧ソ連圏 報告47,802例
1994年死亡 1,746人
1994年の致命率幅 2.8%〜23.0%
ロシア1994年 39,703例、死亡1,104人
年齢 ロシアでは流行中の約70%が15歳以上

ジフテリアは「日本で今ない」だけで終わらせにくい。免疫の隙間が大きい集団では、毒素性疾患として再燃しうる。

出典: S69

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5-34. 破傷風実例:米国2009〜2023年、37人が死亡

CDCの2026年監視サマリー。破傷風は米国でも少ないが、発症後の重さは残っている。

指標 数字
期間 2009〜2023年
報告症例 402例
関連死亡 37人
致命率 12.4%
平均発生率 100万人あたり年0.08例
平均死亡率 100万人あたり年0.008人
接種歴判明者のうち未接種 43.9%

少ない病気でも、発症すればICU、人工呼吸、死亡まで行く。破傷風では「周囲の接種率」より本人の免疫と外傷時対応が大きい。

出典: S70

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5-35. 破傷風実例:傷の処置で機会を逃すことがある

同じCDC監視サマリーでは、発症前に医療を受けていた人もいた。

見る点 数字
傷がある症例 多くが外傷・創傷に関連
重大な傷で発症前に医療を受けた人 45.0%
推奨どおりTIGを受けた人 2.3%
推奨どおり破傷風含有ワクチンを受けた人 26%

破傷風は、発症後に抗菌薬だけで済む病気ではない。傷を受けた時点で「接種歴」「傷の汚染」「TIGが必要か」を見落とさないことが予防になる。

出典: S70

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5-36. ポリオ実例:タジキスタン2010年、欧州地域へ再侵入

WHOの2010年疫学ブリーフとCDC MMWRの報告。欧州地域は2002年にポリオフリー認定を受けていたが、2010年に野生株1型が再侵入した。

見る点 事実
タジキスタン確定例 413例、死亡19人(2010年7月12日時点)
その後のCDC整理 タジキスタン458例
欧州地域全体 476例
周辺国 ロシア14例、トルクメニスタン3例、カザフスタン1例
意味 ポリオフリー地域でも、輸入後に流行が起きうる

ポリオは「日本で今ない」だけではなく、入ってきた時に麻痺と死亡をどれだけ防げるかで見る病気。

出典: S71, S72

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5-37. この章のまとめ

見たこと 判断に使う要点
ジフテリア 毒素による気道閉塞、心筋炎、神経障害を中心に見る。
破傷風 土壌由来で人から人への流行ではないため、集団免疫だけでは守られにくい。
ポリオ 多くは無症状でも、一部で神経に入り麻痺、死亡、長期後遺症につながる。
国内で少ない理由 今少ないことと病気が軽いことは違い、接種率低下や輸入例の影響も見る。
判断への接続 「身近さ」と「かかった場合の重さ」を分け、毒素中和と麻痺予防の意味を見る。