5種混合ワクチン 判断材料

4. 百日せきとHib

項目 内容
この章の役割 乳児期に特に現実的な2疾患。国内外データ、後遺症
この章で分かること 百日せきとHibが、乳児でなぜ重くなりやすいか
読後のゴール 長引く咳や「インフルエンザ菌」という名前に惑わされず、病態と重症化を説明できる

この章では、乳児期の判断で特に大きい百日せきとHibを詳しく見る。症状名より、気道・血液・髄膜で何が起きるかを追う。

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4-1. 百日せきとは

見るところ 内容
原因 百日咳菌による呼吸器感染症
うつり方 咳・くしゃみなどの飛沫、家庭内感染が問題
症状 長く続く咳、咳込み、乳児では無呼吸もありうる
乳児で怖い点 肺炎、けいれん、脳症、窒息、哺乳不良
判断上の意味 2025年に国内報告が大きく増えている
1歳以下、特に生後6か月以下では死亡することもある、と厚労省は説明している。

出典: S1

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4-2. 百日咳菌はどんな菌?

百日咳菌は、Bordetella pertussis。ヒトの気道にかなり寄った細菌。

見るところ 内容
菌の形 小さなグラム陰性桿菌に近い形
好む場所 鼻・のど・気管支の粘膜
増え方 気道の表面に付着して局所で増える
主な病気の作り方 毒素と炎症で、気道の掃除機能を壊す
感染の広がり 咳で出る飛沫に乗って、人から人へ

血液中で全身に増える菌というより、気道の表面に居座って、そこから毒素と炎症で長い咳を作る菌として見る。

出典: S30

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4-3. グラム陰性桿菌って何?

グラム陰性桿菌は、菌の「染まり方」と「形」をまとめた言葉。

言葉 意味
グラム染色 細菌を染め分ける古典的な検査法
グラム陰性 グラム染色で紫に残らず、赤〜ピンク系に見える菌
桿菌 棒状の菌。丸い菌は球菌と呼ぶ

つまり「グラム陰性桿菌」は、ざっくり言うと「グラム染色では陰性に分類される、棒状の細菌」という意味。

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4-4. グラム陰性だと何が違う?

グラム陰性菌は、細胞の外側の作りがグラム陽性菌と違う。

見るところ グラム陰性菌の特徴
外膜 細胞壁の外に外膜がある
LPS 外膜にリポ多糖という成分を持つ
薬剤感受性 外膜のため、薬が入りにくい場合がある
免疫反応 LPSなどが炎症反応に関わることがある

ただし、グラム陰性だから全部同じ病気になるわけではない。百日咳菌は気道への付着と毒素、Hibは莢膜と侵襲性感染が主な見どころ。

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4-5. グラム陰性桿菌の用語まとめ

百日咳菌やHibの説明で出る言葉。

用語 意味
グラム染色 細菌を染め分ける古典的な検査
グラム陰性 染色で紫に残りにくく、外膜を持つタイプ
桿菌 棒状の細菌
グラム陰性桿菌 外膜を持つ棒状の細菌
外膜 グラム陰性菌の外側にある膜。LPSなどを含む

「グラム」は重さではない。染色での分類。

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4-6. 気道の線毛:のどの掃除ブラシ

気道の表面には、線毛という細かい毛のような構造がある。

ふつうの働き 百日咳で困ること
粘液を外へ運ぶ 粘液がたまりやすい
ほこりや菌を外へ出す 菌や分泌物を処理しにくい
気道をきれいに保つ 咳で無理に出そうとする

百日咳菌は、この線毛のある気道上皮に付着する。CDC Pink Bookでも、線毛を麻痺させ、気道炎症を起こし、分泌物の排出を邪魔すると説明されている。

出典: S30

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4-7. 百日咳菌が気道にくっつく流れ

ざっくりの流れ。

  1. 飛沫で菌が鼻・のどに入る
  2. 気道上皮、特に線毛のある細胞に付着する
  3. そこで増えながら、複数の毒素や付着因子を出す
  4. 線毛の動きが落ち、気道の炎症が起こる
  5. 粘液や刺激を外に出そうとして、発作的な咳になる

「肺の奥で一気に菌が増える」というより、気道の表面を荒らして、掃除機能を壊し、咳を長引かせるイメージ。

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4-8. 百日咳菌の毒素と付着因子

百日咳菌は、いくつかの“道具”を使って病気を作る。

因子 ざっくり役割
百日咳毒素 免疫や細胞内シグナルに影響し、全身症状にも関わる
線維状赤血球凝集素 気道上皮への付着に関わる
パータクチン 付着・感染成立に関わるタンパク質
線毛抗原 気道表面への付着に関わる
気管細胞毒素など 線毛上皮を傷つけ、咳を長引かせる方向に働く

5種混合の百日せき成分は、こうした菌の一部の抗原を精製・無毒化して使う。菌まるごとではない。

出典: S2, S3, S30

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4-9. 百日咳毒素:細胞の連絡を乱す

百日咳毒素は、菌が出すタンパク質毒素。細胞内のGタンパク質系のシグナルに影響する。

見るところ 内容
毒素のタイプ タンパク質毒素
作用 細胞内シグナルを乱す
体への影響 免疫細胞の動き、炎症、咳の長期化などに関わる
ワクチンでの考え方 毒性を落としたトキソイドとして免疫に覚えさせる

「毒素が入るから怖い」ではなく、実際の病気で問題になる毒素に対して、先に抗体を用意する設計。

出典: S2, S3, S30

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4-10. 百日せきの症状が長い理由

百日せきは、熱が高い病気というより、咳が長く続く病気。

時期 起きること
カタル期 かぜっぽい。鼻水、軽い咳。ここでうつしやすい
痙咳期 発作的な咳、咳込み、嘔吐、無呼吸、チアノーゼ
回復期 咳が少しずつ減る。でも刺激でぶり返すことがある

線毛上皮が傷み、気道の掃除機能が落ちるので、菌が減っても咳だけ残ることがある。これが「百日」の感覚に近い。

出典: S30

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4-11. 乳児で無呼吸が怖い理由

乳児では、大人みたいな「ヒューッという咳」より、無呼吸やチアノーゼが目立つことがある。

乳児の条件 百日せきで困ること
気道が細い 少しの分泌物や炎症でも詰まりやすい
呼吸調節が未熟 咳発作で呼吸リズムが崩れやすい
体力が少ない 咳込みで哺乳や睡眠が崩れやすい
免疫が未成熟 重症化しやすい時期がある

だから生後6か月未満では、単なる長引く咳として見ない。家族の咳からうつることもあるので、周囲の症状もかなり大事。

出典: S1, S30

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4-12. 百日せきはいつうつりやすい?

やや厄介なのは、強い咳が出る前からうつしやすいこと。

時期 感染を広げる見方
カタル期 かぜっぽく見える。感染性が高い
痙咳期の初期 咳込みで飛沫が出やすい
抗菌薬開始後 一定期間で感染性は下がるが、咳は残ることがある
家庭内 兄弟、親、祖父母から乳児へ入る可能性

ワクチンは、本人の重症化を減らすだけでなく、家庭内で「乳児に入る前に気づく」行動ともセットで考えたい。

出典: S30

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4-13. 百日せき:乳児で重くなる理由

  • 気道が狭い
  • 咳で呼吸が止まりやすい
  • チアノーゼが起こりうる
  • 肺炎や窒息が致命的になりうる
  • 家族・兄弟から感染する可能性がある

出典: S1

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4-14. 百日せき:一般的な病態リスクを10万人で見る

厚労省のページでは、百日せきにかかった場合の目安がこう出ている。ここは「日本の現在の発生率」ではなく、感染した場合の病態リスクとして読む。

指標 全体 生後6か月以内
死亡率 約0.2% 約0.6%
肺炎 約5% 約12%

10万人が感染したと仮定すると、こう読む。

指標 全体 生後6か月以内
死亡 約200人 約600人
肺炎 約5,000人 約12,000人

ここは「感染したら」の数字。実際に10万人全員が感染するわけではない。でも、乳児で感染した時の重さはかなり見える。

出典: S1

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4-15. 百日せき:日本2025年の報告を10万人換算

JIHSのまとめでは、2025年第1〜44週で、届出ガイドラインに合う百日せきが83,793例。

日本の総人口を約1億2,316万人としてざっくり割ると、全人口では、

10万人あたり約68例

くらいの報告数になる。

見方 数字
2025年第1〜44週の届出 83,793例
日本全人口換算 10万人あたり約68例
0〜19歳の地域差 高い県では10万人あたり800〜1,100例台も報告

全人口平均はかなり薄まる。乳児のいる家庭では、学童・兄弟・親からの家庭内持ち込みを別に見る必要がある。

出典: S35, S36

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4-16. 百日せき:日本2025年の基準に80〜85%減をかけると

厚労省は、百日せきの罹患リスクをワクチンで80〜85%程度減らせると説明している。

仮に、ある集団で百日せきが10万人あたり68例起きる状況を「比較のための基準」と置くと、単純計算ではこうなる。

状況 百日せきになる人数
比較のための基準リスク 10万人あたり約68人
80%減なら 約14人
85%減なら 約10人
減る人数 約54〜58人

これは未接種者だけの実測値ではなく、相対リスクを10万人あたりに直すための仮計算。流行が強い地域・家庭内曝露がある家庭では、差はもっと大きく見える。

出典: S1, S35

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4-17. 百日せき:日本2025年の基準から死亡・肺炎までつなげる

同じ基準リスクで、10万人あたり68人の乳児が感染したと仮定すると、生後6か月以内ではこうなる。

指標 感染68人の場合 ワクチン80〜85%減後の感染10〜14人の場合
肺炎 約12% 約8人 約1〜2人
死亡 約0.6% 約0.4人 約0.06〜0.08人

数字が小数になるのは、「個人の子が0.4人死ぬ」という意味ではない。10万人規模の集団で見たときの期待値。

家庭での読み方は、こう。百日せきは感染者数が増えると、乳児の肺炎・死亡も後から出てきやすい。

出典: S1, S35

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4-18. 百日せき:日本2025年データは乳児を重く読む

2025年のJIHSまとめでは、届出患者の中心は学童期〜若年層。けれど、乳児も増えている。

JIHSまとめのポイント 読み方
0〜5か月児は2019年比1.9倍 接種完了前の時期が問題
6〜11か月児は2019年比3.7倍 乳児にも流行が波及している
死亡例4例中2例が6か月未満児 重症例は乳児に寄りやすい
感染経路判明例では同胞74%、母12%、父9% 家庭内持ち込みがかなり大きい

だから百日せきは「子ども本人だけ」では読みにくい。兄弟、親、祖父母、保育環境も含めて見る病気。

出典: S35

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4-19. 百日せき:ワクチンの限界も数字に入れる

  • ワクチンで罹患リスクは80〜85%程度減るとされる
  • でも100%ではない
  • 免疫は時間とともに薄れやすい
  • 学童・成人が軽い咳で乳児へ持ち込むことがある
  • だから、乳児本人の接種と、家族の長引く咳への早めの対応をセットで見る

「打てば絶対に百日せきゼロ」ではない。けれど、流行時に10万人あたりで見た感染者数をかなり下げる、という効果として読む。

出典: S1, S30, S32, S35

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4-20. 百日せき:年齢別に見る重さ

百日せきは、全年齢で同じ怖さではない。特に乳児、なかでも生後数か月が重い。

年齢 データで見えること
新生児〜生後2か月未満 米国2000〜2017年の百日せき死亡307例のうち、2か月未満が84%を占めた
生後6か月未満 肺炎は米国報告で18.6%。日本資料でも肺炎約12%、死亡率約0.6%という目安がある
幼児・学童 本人の死亡は乳児より少ないが、流行の中心や家庭内感染源になりうる
思春期・大人 長引く咳で見逃されやすく、乳児へ持ち込む側になることがある

家庭で見るなら、「赤ちゃん本人がかかる怖さ」と「周りが持ち込む怖さ」を分ける。

出典: S1, S30, S35

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4-21. 百日せき:後遺症率は年齢別に揃いにくい

百日せきで年齢別に比較しやすいのは、肺炎、入院、死亡。後遺症率は、Hib髄膜炎ほどきれいには揃いにくい。

見る結果 年齢別に見やすいか 理由
肺炎 比較的見やすい 乳児で多い。米国Pink Bookでは6か月未満18.6%
死亡 見やすい 死亡例が乳児、とくに2か月未満に偏る
けいれん ある程度見える 非常に若い乳児で問題になりやすい
脳症・長期後遺症 見えにくい 稀で、診断・追跡の条件が揃いにくい

だから百日せきは、「後遺症率が何%」よりも、乳児の肺炎・無呼吸・死亡の偏りを重く見る病気。

出典: S30

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4-22. Hib感染症とは

Hibは、ヘモフィルスインフルエンザ菌b型

見るところ 内容
名前の注意 インフルエンザウイルスとは別物
菌の特徴 莢膜を持つ細菌。b型が乳幼児の重症感染で問題になる
重い病態 髄膜炎、敗血症、急性喉頭蓋炎、肺炎など
乳児で怖い点 発熱から急に重くなることがある。後遺症も問題
判断上の意味 今少ないのは、ワクチンで減った面が大きい

ここで急に「莢膜」という言葉が出る。Hibのb型は、菌の外側にある莢膜の型で分けられる。だから次に莢膜を見る。

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4-23. なぜ「インフルエンザ」という名前?

Hibは名前に「インフルエンザ」と入るけど、季節性インフルエンザの原因ウイルスとは別物。

名前 正体
Haemophilus influenzae 細菌。Hibはこのb型
influenza virus ウイルス。季節性インフルエンザの原因
Hibワクチン Haemophilus influenzae type bを狙う
インフルエンザワクチン influenza virusを狙う

名前が似ているだけで、病原体の種類も、ワクチンの中身も、対象の病気も違う。

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4-24. 名前が残った歴史的な理由

昔、インフルエンザの原因がまだ分かっていなかった時代に、この菌がインフルエンザ患者から見つかり、原因だと考えられた。

その後、季節性インフルエンザの原因はウイルスだと分かった。でも菌の名前は Haemophilus influenzae のまま残った。

今の理解 内容
インフルエンザ influenza virusによる感染症
Hib感染症 Haemophilus influenzae type bによる細菌感染症
名前の混乱 歴史的な名前が残ったため

Hibワクチンは、Hib菌による髄膜炎・敗血症などを防ぐためのもの。冬に流行するインフルエンザウイルスを防ぐワクチンではない。

出典: S23

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4-25. Hib菌はどんな菌?

Hibは、インフルエンザウイルスではなく細菌。名前が紛らわしい。

見るところ 内容
正式な相手 Haemophilus influenzae type b
菌のタイプ 小さなグラム陰性桿菌
住み場所 鼻やのどにいることがある
問題になる型 莢膜を持つb型
怖い病態 血液や髄液に入る侵襲性感染症

のどにいるだけなら軽く済むこともある。問題は、菌が血液や髄液など、本来菌がいない場所へ入った時。

その「血液や髄液へ進みやすさ」に関わるのが、外側の莢膜。

出典: S23

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4-26. なぜHibで莢膜を見るのか

Hibの話で莢膜を見る理由は3つ。

理由 内容
病原性 莢膜があると、体の免疫から逃げやすい
型の区別 b型は莢膜の型の一つ
ワクチンの標的 Hibワクチンは莢膜多糖を目印にする

つまり莢膜は、単なる菌の飾りではない。Hibが重症化する理由にも、ワクチンが何を狙うかにも関わる。

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4-27. 莢膜とは:細菌の外側にあるカプセル

莢膜は、細菌の外側を包むぬるっとした層。Hibでは、この莢膜がかなり大事。

見るところ 内容
場所 細菌の細胞壁のさらに外側
主成分 多糖。糖が長くつながった分子
役割 体の免疫から逃げやすくする
Hibのb型 莢膜の型の一つ。乳幼児の重症感染で問題になった型

細菌そのものの「中身」より、外側の莢膜が免疫に見える目印になる。Hibワクチンが莢膜多糖を狙うのは、ここが理由。

出典: S23

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4-28. 莢膜があると、なぜ重症化しやすい?

莢膜は、細菌にとって防具みたいな働きをする。

体の防御 莢膜があると起きやすいこと
補体 細菌表面にくっつきにくくなる
好中球・マクロファージ 食べて処理しにくくなる
抗体 莢膜に対する抗体がないと目印が弱い
血液中 免疫から逃げて広がりやすい

だからHibでは、莢膜に対する抗体がかなり意味を持つ。抗体が莢膜にくっつくと、免疫細胞が「これを処理して」と見つけやすくなる。

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4-29. 莢膜多糖とは:糖の長い鎖

多糖は、糖がたくさんつながった分子。Hibの莢膜多糖は、細菌の外側に並ぶ目印になる。

用語 ざっくり
単糖 糖の小さい単位
多糖 単糖がたくさんつながったもの
莢膜多糖 細菌の外側のカプセルを作る糖の鎖
オリゴ糖 多糖を短くした糖の鎖

ゴービックの「Hibオリゴ糖-CRM197結合体」は、Hib由来の糖鎖を短く整えて、タンパク質と結合させたものとして見る。

出典: S2, S23

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4-30. Hibが侵襲性感染へ進む流れ

Hibで怖いのは、のどから血液や髄液へ進むこと。

  1. 鼻・のどに定着する
  2. 莢膜で免疫から逃げやすくなる
  3. 粘膜を越えて血液へ入る
  4. 血液中で増え、敗血症になることがある
  5. 髄膜へ届くと髄膜炎、のどの奥では喉頭蓋炎になることがある

莢膜に対する抗体があると、血液中で菌に目印をつけやすい。Hibワクチンの狙いはここ。

出典: S23

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4-31. Hib髄膜炎が怖い理由

  • 発熱から始まり、けいれんや意識障害に進むことがある
  • 抗菌薬治療をしても死亡や後遺症が残ることがある
  • 後遺症として難聴、発達への影響などが問題になる
  • 発症頻度は下がっても、発症した場合の重みは大きい
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4-32. Hib:日本の導入前後を10万人あたりで見る

厚労省のページでは、日本でHibワクチンが定期接種になった前後の数字がこう整理されている。ここは日本データ。

病態 導入前 2014年 減り方
インフルエンザ菌髄膜炎 5歳未満10万人あたり7.7 0.0 100%減
髄膜炎以外の侵襲性感染症 5歳未満10万人あたり5.1 0.5 90%減
合計のイメージ 12.8 0.5 約12.3人減

5歳未満10万人で見ると、導入前は侵襲性Hibが年12〜13人くらい。導入後は0.5人くらいまで下がった、という読み方になる。

出典: S1

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4-33. Hib:日本データから死亡・後遺症まで見る

Hib髄膜炎は、発症した後の後遺症が重い。

ここは日本の厚労省ページにある死亡率・後遺症率を、日本の導入前発生率に掛けて見る。

厚労省ページでは、Hib髄膜炎の死亡率は0.4〜4.6%、聴力障害を含む後遺症率は11.1〜27.9%とされている。

導入前のHib髄膜炎7.7人/10万人にそのまま掛けると、

結果 5歳未満10万人あたりの目安
死亡 約0.03〜0.35人
後遺症 約0.85〜2.15人

小さく見えるけど、これは毎年の5歳未満10万人あたり。実際には「その子が髄膜炎になったら後遺症率が1〜3割近い」という重さも同時に見る。

出典: S1

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4-34. Hib:日本ではワクチンで何人減ったか

ここは日本データ。5歳未満10万人あたりで見ると、Hibワクチン導入前後はかなりはっきりしている。

病態 導入前 導入後 減った人数
Hib髄膜炎 7.7 0.0 7.7人
非髄膜炎の侵襲性感染症 5.1 0.5 4.6人
合計 12.8 0.5 12.3人

10万人あたり12人前後というと、数字だけでは少なく見えるかもしれない。でもHibは、起きた時に髄膜炎・敗血症・後遺症につながる病気。ここは「頻度は高くないが、重さが大きい」タイプ。

出典: S1

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4-35. Hib:日本・米国で今少ない理由を読む

Hibは「今少ないから心配しなくていい」とは少し違う。

読み方 内容
導入前 5歳未満10万人あたり侵襲性Hibが約12.8人
導入後 0.5人程度まで低下
米国データ Hib結合型ワクチン導入後、5歳未満の侵襲性Hibは99%以上減少と説明されている
家庭での意味 少ない理由の一部がワクチンなら、未接種で同じ低リスクとは限らない

Hibは、ワクチン効果を10万人あたりで見やすい病気。数字の差がそのまま重症感染の差として見えやすい。

出典: S1, S23

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4-36. Hib:米国データでも99%以上減っている

米国データでも、Hib結合型ワクチンの導入前後はかなりはっきりしている。

米国データ 数字
導入前の重いHib感染 年間約20,000例
導入前の5歳未満発生率 10万人あたり40〜50例程度という整理がある
導入後の減少 侵襲性Hibは99%以上減少
2018年の5歳未満Hib 10万人あたり0.08、38例
2015〜2022年平均 5歳未満10万人あたり0.14例

前の日本データとは別に、こちらは米国データ。

国も時期も違うので、数字を直接足し算はしない。でも「Hibはワクチン導入で大きく減る病気」という方向は、日本と米国でかなり揃っている。

出典: S23, S46

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4-37. Hib:日本と米国を同じ表に置く

比較しやすいように、国を明記して並べる。

導入前 導入後 読み方
日本 5歳未満10万人あたり侵襲性Hib 約12.8 2014年 約0.5 定期接種後に大きく減った
米国 5歳未満10万人あたり40〜50程度、または年間約20,000例 2018年 0.08、2015〜2022年平均0.14 99%以上減少

注意点は、調査年、監視制度、症例定義が完全には同じではないこと。

でも、どちらも「Hibは自然に何となく消えた」というより、結合型ワクチン導入後に侵襲性感染が大きく下がった、と読む方が自然。

出典: S1, S23, S46

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4-38. Hib:年齢別に見る死亡・後遺症

Hibは、年齢でかなり見え方が変わる。

年齢 見えるリスク
新生児 Hibそのものより、Hib以外のインフルエンザ菌なども問題になりうる。ここは5種混合のHibだけでは語り切れない
乳児・5歳未満 侵襲性Hibの中心。WHOは侵襲性Hibの90%以上が5歳未満、過半が乳児と整理している
5歳以上〜思春期 健康な子ではHibリスクは下がる。免疫不全などがあると別に見る
大人・高齢者 Hibより非b型・無莢膜株なども増える。65歳以上では侵襲性H. influenzaeの死亡割合が小児より高いとCDCは説明している

5種混合で狙うHibは、主に乳幼児の侵襲性感染を減らすもの。大人のインフルエンザ菌感染全般を防ぐワクチンではない。

出典: S23, S46, S48

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4-39. Hib髄膜炎:後遺症率は小児で重く見る

Hib髄膜炎の後遺症は、年齢別に細かく割れるデータばかりではない。でも、小児での重さはかなり一貫している。

データの見方 数字
CDC Pink Book Hib髄膜炎の死亡割合は3〜6%。生存者の15〜30%に聴覚障害などの神経後遺症
WHO surveillance standard Hib髄膜炎の死亡割合は、治療ありで約5%、治療なしでは最大60%。生存者の20〜40%に後遺症
日本の厚労省ページ Hib髄膜炎の死亡率0.4〜4.6%、後遺症率11.1〜27.9%

数字の幅は、医療アクセス、診断時期、治療開始の早さで変わる。

でも「Hib髄膜炎は助かれば終わり」ではない。難聴、けいれん、発達への影響が残ることがある。

出典: S1, S23, S48

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4-40. 百日せき:世界データで見る再増加

PAHO/WHOの2026年3月更新では、WHO公表データとして、2024年の世界の百日せき報告は 941,582例。2023年の 163,388例 から 5.8倍 と整理されている。

地域・年 報告数
世界 2023年 163,388例
世界 2024年 941,582例
西太平洋地域 2024年 593,659例
欧州地域 2024年 298,612例
米州地域 2024年 66,184例
米州地域 2025年 46,870例

これは「世界中で同じリスク」という意味ではない。百日せきは、国・地域・年で大きく波が出る。日本の2025年増加は、世界的な再増加の中に置くと読みやすい。

出典: S50

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4-41. 百日せき実例:3か月児が肺炎・肺高血圧で死亡

CDC MMWRの米国症例。2000年、正期産の3か月女児。

経過 事実
初期 鼻水と咳7日。最初はRSV陰性
家庭内 母は乳児発症の3〜4週前から咳。3歳きょうだいも軽い咳
悪化 咳発作、呼吸困難、発熱、低酸素。白血球129,000
入院後 PCRで百日咳菌陽性。細菌性肺炎を合併
重症化 無呼吸、人工呼吸、DIC、低血圧、肺高血圧、右心拡大
最終 ECMO導入中を含む複数回の心停止。頭蓋内出血後に死亡

剖検では、百日せき感染に、緑膿菌敗血症と壊死性気管支肺炎が重なっていた。ここで見えるのは「長い咳」だけではなく、乳児では呼吸・循環が一気に崩れること。

出典: S51

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4-42. Hib:世界データで見る疾病負荷

WHO EMROの疾病負荷整理では、Hibはワクチン導入前後で世界の小児死亡に大きく関わっていた。

指標 世界データの目安
2000年の重いHib疾患 年約813万件
2000年のHib死亡 年約371,000人
2008年のHib死亡 年約199,000人
Hib髄膜炎の死亡割合 約5%
Hib髄膜炎生存者の重い神経後遺症 10〜15%
Hib髄膜炎生存者の難聴 15〜20%

古い世界推計を使うのは、Hibがワクチンで大きく減った病気だから。今の日本の低頻度だけを見ると、導入前にどれくらいの病気だったかが見えにくくなる。

出典: S52

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4-43. Hib実例:3か月児、発熱2日からけいれん・敗血症へ

CDC Emerging Infectious Diseasesの2025年報告。ニューヨーク市で、2022〜2023年に同じ区の未接種乳児2例がHib髄膜炎を発症した。

1例目は、健康だった3か月女児。

経過 事実
受診前 2日間の発熱とぐったり
診察時 大泉門膨隆、右上方共同偏視、局所けいれん
初期対応 低酸素に非侵襲的呼吸補助、敗血症性ショックに輸液
検査 血液と髄液からH. influenzae、後にHibと同定
合併症 けいれん、両側硬膜下膿瘍
治療後 外科的ドレナージ、4週間のセフトリアキソン。抗てんかん薬継続で退院

Hib髄膜炎は、発熱から数日で「脳・髄膜・血液」の病気になることがある。

出典: S53

5種混合ワクチン 判断材料

4-44. Hib実例:5か月児、脳浮腫と脳幹反射消失

同じ報告の2例目は、未接種の5か月男児。早産歴があった。

経過 事実
受診前 3日間の発熱、ぐったり、口周囲チアノーゼ
入院時 敗血症性ショック、低酸素性呼吸不全、脳症
呼吸管理 気管挿管が必要
画像 CTでびまん性脳浮腫
検査 血液と髄液からH. influenzae、後にHibと同定
転帰 重い神経障害は改善せず、1か月後も人工呼吸器を要してリハビリ施設へ

この2例の菌株は遺伝的に近く、新しいMLST型とされた。報告は、低接種コミュニティがHib保菌の reservoir になり、未接種乳児が重症化しうることを示している。

出典: S53

5種混合ワクチン 判断材料

4-45. 百日せき実例:カリフォルニア2014年、乳児がICUへ

CDC MMWRのカリフォルニア州2014年流行報告。

見る点 事実
2014年報告数 9,935例
入院 347例
入院のうち12か月未満 275例、79%
入院乳児のうち4か月未満 214例、62%
入院乳児のICU 33%
挿管 8%
2014年死亡 発症時5週の乳児1例
2013年発症で2014年報告された死亡 5週未満の乳児2例

同じ報告では、2010年の同州流行でも約9,000例、808入院、乳児死亡10例があったと整理されている。

出典: S67

5種混合ワクチン 判断材料

4-46. Hib実例:ミネソタ2008年、7か月児が髄膜炎で死亡

CDC MMWRの米国ミネソタ州報告。2008年、5歳未満の侵襲性Hibが5例報告され、1例が死亡した。

患者 年齢 病態 転帰 Hib接種
1 15か月 髄膜炎 生存 2回
2 3歳 肺炎 生存 0回
3 7か月 髄膜炎 死亡 0回
4 5か月 髄膜炎 生存 2回
5 20か月 急性喉頭蓋炎 生存 0回

5例は互いに既知の関係がなく、3例は保護者の延期・拒否でHib含有ワクチンを受けていなかった。Hibは少数例でも、髄膜炎として出ると死亡まで行く。

出典: S68

5種混合ワクチン 判断材料

4-47. Hib実例:数例の増加でも「昔の病気」とは言い切れない

同じミネソタ報告で見えるのは、Hibが完全に消えた病気ではないこと。

見る点 内容
報告年 2008年
場所 米国ミネソタ州
5歳未満の侵襲性Hib 5例
州内での意味 1992年以来、5歳未満で最多
背景 米国でHibワクチン不足があり、一次シリーズ完了の重要性が強調された
死亡 未接種7か月児の髄膜炎死亡1例

日本の今の頻度が低いことと、未接種・低接種の集団で重症例が出うることは分けて見る。

出典: S68

5種混合ワクチン 判断材料

4-48. この章のまとめ

見たこと 判断に使う要点
百日せき 咳だけでなく、低月齢乳児の無呼吸、肺炎、入院、死亡を重く見る。
百日せき流行 届出の中心が学童でも、家庭内感染で乳児へ届くリスクがある。
Hib感染症 髄膜炎、敗血症、喉頭蓋炎など侵襲性感染として見る。
Hibの重さ 死亡、難聴、神経後遺症を含め、「かかった場合の重さ」を見る。
データの読み方 日本と海外の導入前後データ、未接種例、流行時の実例を組み合わせて読む。